北海道大学・東北大学・東京工業大学・大阪大学・九州大学の共同研究ネットワーク

物質・デバイス領域共同研究拠点

Research Highlights vol.5

4所長に聞く|中谷和彦/共同研究拠点のこれから、私の思い。

利用者の目線に立ち、いろいろな人に開かれた、使ってもらえる研究所へ。

組織の壁を超えた、深い人的交流を
先駆的に積み重ねてきた。

産学連携のキーワードを名前にもつ研究所。

大阪大学産業科学研究所は、1939(昭和14)年に設立されました。それより前に東京では渋沢栄一など財界の後押しで理化学研究所ができていたので、それに伍する研究所を大阪につくろうと関西財界や有志による期成同盟ができ、募金活動から始めて政府に陳情して設立されたという経緯があります。設立時から産業科学研究所という名前がつけられました。その後、さまざまな研究部門が拡充され、1995年、2009年には大規模な改組が行われましたが、現在まで77年間の歴史の中で、名前は一度も変わっていません。今でこそ産業科学というのは、産学連携の重要なキーワードのひとつと言えますが、それを昭和14年に名づけたのですから、当時の人たちの想いと先見性には驚くばかりです。

設立時に与えられた産研の使命である「産業に必要な自然科学の基礎と応用に関する研究」を追求するという趣旨は一貫して変わらず、大阪大学の附置研究所として世界最高水準の教育・研究を行っていくという責任を負うと同時に、その科学研究を産業に資するべく展開することが求められています。

非常に幅広い分野の研究を行っていますが、設立の背景にある産業界の期待に応えるという趣旨から、研究分野を特定の領域に絞らず、広く工学・理学の各分野を扱っていること、さまざまな可能性への入口が開かれているという多様性が、国立大学附置研究所の中での当研究所のいちばんの特徴だろうと考えています。

大阪大学産業科学研究所。右は「使ってもらえる研究所」という趣旨の一環として設けられた「Salon de SANKEN」

研究者間交流の機運は、古くからあたためられていた。

全国の5つの大学附置研によるネットワーク型の「物質・デバイス領域共同研究拠点」がスタートしたのは、2010年でした。ただそのずっと前から産研と東北大多元研との交流は非常に深いものがありました。産業界との交流や総合理工学研究という面で大きなポテンシャルを持っている両研究所が積極的に交流と共同研究の実績を積み重ね、2005年には附置研究所間連携として新産業創造物質科学センターが設立され、大学の附置研究所間連携のモデルケースとして、活動を強力に進めていました。

初期のこうした交流がベースになって、やがて日本の各地域を代表する5つの研究所ネットワークが誕生しましたが、各地の研究者間で交流しようという機運は、ネットワーク結成前からあたためられていたという実感があります。実際に北大の先生が研究室ごと阪大に移設して研究を行っていたということがありました。いま大学や組織の壁をくずそうと、人的交流をはじめさまざまな努力が行われていますが、そういう取り組みを先駆的に行っていたというところが、われわれの共同研究拠点ネットワークの大きい特徴ではないかととらえています。

科学技術の閉塞状況を打破していくため
学と産がともに創っていく。

外の人といっしょにつくっていく、開かれた研究所。

物質・デバイス領域共同研究拠点の活動第1期は、産研が本部を努めさせていただきました。2016年度から多元研が本部となって第2期がスタートしました。第2期では、予算が限りなく上がっていくわけではないですから、共同研究の件数が評価指標になるということになると、おそらく徐々に頭打ちにならざるを得ないのではとも思われます。しかし、ほんとうに重要なのは件数よりも研究の質であると考えています。

第2期の特徴として、COREラボに参加する若い人がPI(Principal Investigator)つまり研究グループの長として活躍してもらうということが鍵になるととらえていますが、研究の質を向上させていくためには、そうした若い研究者の生の声を聞くことが大切であると思っています。

今回のキックオフシンポジウムにおいて、COREラボに参加した研究者の方が活動報告とともに体験して感じられたいくつかの課題点を挙げられていました。これまでも共同研究の進め方などについて広報はしてきてはいますが、まだ不十分であることは否めません。初めて参加する人が研究室を使うには、いろいろなバリアがまだ残っているんだろうなと思います。われわれ研究所側の目線ではなく、利用していただく方たちの目線での広報を見直さないといけないのではと思っています。

産研では、いまできるだけ「使ってもらえる研究所」になれるようにと取り組んでいるところです。大阪の企業の方々の意志でつくっていただいた研究所なので、ぜひいろいろな方に、大阪の人に限らず、使ってもらえる研究所にしようということです。われわれ内部の者が動くだけではなく、もっと外に開かれた、外の方がわれわれといっしょに何かできるようなバリアフリーな研究所に、という考え方です。

大阪大学の西尾章治郎総長は、OUビジョン2021を示され、そのひとつとして「産学共創」というテーマを提唱されています。産学共同ということではなく、産がリードするとか学がリードしていくということではなく、ともに創っていく。そうじゃないと、この複雑でしかも閉塞している科学技術の状況を突破していけないだろう。われわれの知恵も技術も、産業界の知恵も技術もみんな総動員して、両者が突破できていないことをいっしょにやっていこうということです。産研としては、そうした考え方を基盤として、この共同研究拠点というものを使わせていただきたいし、またさまざまな研究者、産業界の方に使っていただきたいと考えているわけです。

もうひとつ産研としてお知らせしたいのは、みんなが集まって交流できる場として「Salon de SANKEN」というのをつくったんです。産研は研究分野が多様で、建物・施設もあちこちに分散していて、なかなか1カ所に集まれなかったので、玄関から入ってすぐのところに、自由に皆さんが集まれる空間をつくりました。すぐ横には講堂があり、ワークショップやシンポジウムもできる。ワインセラーも用意しようと計画しています。研究室、研究所、大学、産業界、それからベテランも若い人も、いろいろな人たちの気軽で居心地のいい異分野融合の場となればいいな、と思っています。何年か経ってから、「産研でこんな楽しいことがあったよ」と言ってもらえるような、そんな研究所の姿をつくっていけたら最高ですね。

チャンスを生かして、のびのびチャレンジしてほしい。

研究のあり方ということについて、少し感じていることがあります。昔は30代、40代でもなかなか自分の予算というのは取れなかった。まったくお金がない状態で、だからこそ死に物狂いで、いろいろな挑戦をしていたように思います。現在では若い研究者でも研究費の予算がある程度つけられて、ぼくらの時代から考えるとずいぶん恵まれていると言えます。ただ反面、予算を受けると必ず成果や論文の提出を求められるものです。恵まれた環境に入ったがために、かえって追われてしまうということがあります。そうすると論文を提出することに終始して、結果的に何かこじんまりとしたものになってしまうのではないかと心配になります。

COREラボというのは、今まであまり日のあたらなかった研究者の方に大きなチャンスを持ってもらってチャレンジしてもらおうという仕組みです。成果を出してもらうことに超したことはないんですが、それよりも、のびのびできるチャンスを生かして研究にチャレンジする気構えを見せてもらいたいし、また評価にあたっても、研究者がほんとうに新しいチャレンジに取り組んだということをこそ評価するべきものであると考えています。

この記事は、2016年4月26日、物質・デバイス領域共同研究拠点平成27年度活動報告会会場にて取材したものです。

NAKATANI, Kazuhiko
中谷 和彦

中谷 和彦

物質・デバイス領域共同研究拠点 拠点副本部長、
大阪大学産業科学研究所 所長、
精密制御化学研究分野教授。理学博士。

1959年奈良県生まれ。1982年大阪市立大学理学部化学科卒業、1984年同理学研究科化学専攻修士課程修了、1997年京都大学工学研究科合成・生物化学専攻助教授、2005年大阪大学産業科学研究所教授、2015年同所長。
1995年有機合成化学奨励賞、2005年日本IBM科学賞、2008年市村学術賞貢献賞、2008年第25回日本化学会学術賞、2008年第26回大阪科学賞、2011年大阪大学共通教育賞など。

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