北海道大学・東北大学・東京工業大学・大阪大学・九州大学の共同研究ネットワーク

物質・デバイス領域共同研究拠点

Research Highlights vol.6

4所長に聞く|高原淳/共同研究拠点のこれから、私の思い。

研究者と受け入れ側が、人的交流を深めながら刺激しあい、高めあう。

設備利用を超えて解析の支援をしたり
逆に新しい視点をもらったり。

炭素資源からバイオマスへ、さらにソフトマテリアルへ。

九州大学先導物質化学研究所は、1944(昭和19)年、九州帝国大学時代に木材研究所として創設された古い歴史をもっています。その後、生産科学研究所、さらに機能物質科学研究所として再編されました。一方、有機化学分野において有機化学基礎研究センターが設立されました。これはもともと分子科学研究所(愛知県岡崎市)のような全国組織の共同利用機関として構想され、最終的には九州大学の学内共同利用研究所として創設されたものです。2003年、機能物質科学研究所と有機化学基礎研究センターを融合・改組して誕生したのが先導物質化学研究所です。

研究所の基本的な特徴としては、原子・分子・ナノスケールからマクロスケールまでの物質の構造と機能にかかわる基盤化学とともに、その応用化、新しい機能性分子の合成、集積化、先端材料のデバイス作成などの研究を進めています。

歴史的な背景から見てみますと、もともと九州には炭鉱があったので石炭資源を有効に活用するという意図もあり、炭素材料の研究が盛んでした。その後も炭素資源関係の研究はオンリーワン型の研究として進んでいますし、バイオマスなどまで広がりを見せています。さらにはエネルギー分野に派生していて、電池関係の研究、省エネ型デバイスの研究などにつながっています。

また近年、研究の一つの中心となっているのは、ソフトマテリアルと言われる分野です。小さな分子がひも状につながった高分子を中心として、ゲルや液晶、またたんぱく質などの生体高分子などを扱い、さまざまな応用展開を行っています。炭素資源学分野とともに、ソフトマテリアル化学分野で、先端研究成果を創出しているところです。

九州大学先導物質化学研究所。ソフトマテリアル化学分野が強みとなっている

研究者と拠点内研究者の、密なコミュニケーション。

共同研究拠点というのは、いろいろな公立大学・私立大学、あるいは民間の機関の若い研究者の方に、拠点の研究所に来てもらって、その方にリーダーとなっていただき、研究所の設備機器を存分に使ってもらって新しい研究成果をあげていただく、ということが基本です。

たとえばソフトマテリアルの先端的な研究を目指している地方の大学の若い研究者の方がいるとします。拠点研究所など大きな基幹大学では研究設備が整っていますが、地方の大学は残念ながら設備が十分に整っていないので、彼らが欲している研究設備を提供し、かつ、いっしょに研究をして新しい成果につなげていくというスタンスで共同研究を行います。拠点研究所には、汎用的な装置でも、より高性能なものが揃っていますし、もちろん研究所独自の設備もあるので、それらを上手に活用してもらって、新しいサイエンスを展開してもらえればいいなと、思っています。

ただそこで重要なことは、研究設備や機器の利用ということだけではなく、拠点に来ていただいた研究者と拠点内の研究者が、いかに親密なコミュニケーションがとれるか、ということだと考えています。彼らが持っている材料の特性について解析の支援を行ったり、どういうふうに材料をつくったらより高い性能が出てくるのかノウハウをアドバイスしたり、あるいは拠点側でふだん考えていたことに対して逆に新しい視点を投げかけてくれるかもしれない。両者が意見を出しあい、刺激しあいながら、より新しい材料設計につなげていく、より高い性能を目指していくということが、この試みのあり方だと思うし、ひとつのメリットだと思っています。

もちろん、パートナーとなる直接の受け入れ研究者が責任をもって対応しますし、それで足りなければ研究所内のほかの研究者がアドバイスできる体制になっているし、さらにネットワークの他の研究所とも、研究者間のフェイストゥフェイスの関係を積み重ねてきているので、有効に機能していけるのではと考えています。
いずれにしても、共同研究拠点の取り組みは人的交流が眼目だろうと思います。

拠点参加者に惜しみない支援、
そして逆に新しい視点の刺激をもらう。

共同研究の場そのものが、若手育成の場。

物質・デバイス領域共同研究拠点は、いま第2期と言われる時期に入ったわけですが、これまで以上にやはり若手の育成をどうやっていくのかということが課題になってくると考えています。
これは、先導物質化学研究所だけのことではなく全体のこととして考えていかないといけないことと思います。

そして、その若手育成というテーマのキーになっているのは、学生も含めて若手に共同研究に参加してもらいながら、うまく成果につなげていってもらう、つまり共同研究の場そのものだと、私は思っています。いまたとえば東大の学生さんに九大に来てもらって実験をしてもらったりしています。非常に親密に、こちらのスタッフと学生同士、若い研究者同士で交流しながら、お互いに刺激を受けながら、成長していっているという点で、かなり有効な姿があらわれていると思っています。

こういう場合でも、学生が直接のパートナーだけではなく、私だとか他の分野の人とも接触できる機会を設けた方がいいと思っています。いまではこの学生は、私に資料を見てくれ、スライドを見てくれと相談があったり、そういう関係のところまで来ています。そういう形で専門領域が違うことでもアドバイスが受けられるため、将来的にいい方向につながると感じています。

ふつうだったら自分の所属する研究室の指導者からしかアドバイスを受けられないことが多いわけですが、それだとどうしても視野が狭くなりがちなので、こういう共同研究というものに参加してもらい、さらにはついでに他の分野の人からも、いろんな刺激を受けることができたら、学生もより広い視野で成長していってくれるのではないかと思っているわけです。受け入れ側での親身な対応とともに、送り手側の先生も柔軟な気持ちを持っていただくことが大切だと思います。

教育支援のネットワークでもある共同研究拠点。

学生や若い研究者の人たちは、できるだけ幅広い視野をもつべきだと考えています。自分の専門分野ばかりにとらわれていると研究が大きく広がらないので、化学が中心であっても物理や生物などを毛嫌いせずに広い知識を持ちなさい、と私は常々話しています。

たとえば先日の学内の講義では、戦前の物理学者・寺田寅彦の話をしました。結晶解析技術や地球物理学の分野でノーベル賞級の功績を残した物理学者ですが、自然観がすばらしいし、幅広い知性を持っていました。1896(明治29)年、熊本の旧制第五高等学校に入学しますが、その時の英語教師は夏目漱石で、大きな影響を受けたと言われます。学生や院生には、この寺田寅彦のように、専門分野のことのみならず、文章を書く心得や、歴史観を含めた幅広い知識を持ちなさい、理系も文系も関係ないんだという話をしてきました。

ついでに話をすると、その講義の1週間ほど前に熊本地震がありました。旧制五高の建物は、いま五高記念館となっていますが、被災し休館を余儀なくされました。かつて寺田寅彦が物理を学んだところであり、夏目漱石から英語を学んだところです。そういうところが被害を受けたんだよという話をしました。

熊本と福岡は実は98Kmしか離れていない。わずかの差で熊本はあれだけ大きな被害が出ていますが、非常に身近な存在でもあります。九州大学としては災害派遣医療チームの派遣から、地震や建築の専門家の派遣、被災学生の支援、経済支援など速やかに対応しましたが、共同研究拠点の間でも、すぐに支援を行うというメッセージをホームページに掲載し、震災被害を受けた多元研の先生方からのご意見を参考に、所長を中心としたメンバーで議論し、支援策を提案しました。共同研究拠点は、研究のネットワークということにとどまらず、いわゆる学生教育の支援のネットワークとしてもあるんだと共有できたのではないかと思います。

この記事は、2016年4月26日、物質・デバイス領域共同研究拠点平成27年度活動報告会会場にて取材したものです。

TAKAHARA, Atsushi
中谷 和彦

高原 淳

物質・デバイス領域共同研究拠点 拠点本部委員、
九州大学先導物質化学研究所 所長、
分子集積化学部門複合分子システム分野教授。工学博士。

1955年長崎県生まれ。1978年九州大学工学部応用化学科卒業、1983年同大学院工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了、1985年同工学部助教授、1999年同有機化学基礎研究センター教授、
2003年同先導物質化学研究所教授、2013年同所長。
2014〜2016年高分子学会会長、2003年高分子学会賞、2011年第9回産学官連携功労者表彰経済産業大臣賞、2013年日本レオロジー学会賞など。

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