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未来を拓く若手研究者インタビュー

このページでは、「拠点卓越学生研究員」の中から特に成果をあげていただいた研究員を推薦により選出し、
若手研究者を広く多くの方へご紹介するためのシリーズとして掲載していきます。

インタビュー Vol.03

水の限りない可能性に挑戦

未来を拓く若手研究者インタビュー Vol.03 山添 康介

取材:2017年8月21日

高分子電解質ブラシが取り込む水の構造からブラシの機能を理解する

はじめに

 近年、高分子電解質1を二次元に配列させた高分子電解質ブラシ(図1)は、その親水的性質によって水を取り込んで膨潤し、ブラシ表面に良好な潤滑性や自発的に油汚れを清浄にする防汚性などを付与する表面の改質法として注目されています。例えばまな板に応用できれば、洗剤を使わずに、または従来よりも少量でまな板をきれいな状態で保てるようになります2。この性質は水との高い親和性によるもので親水性と呼ばれ、水環境下では油がついていてもブラシは水を選択し、油は離れてしまうわけです。このような革新的な表面改質技術は環境問題への貢献も期待されます。
 しかし親水高分子材料表面の濡れ性、防汚性などにおいては、水がその機能発現において重要と考えられていながら、どのような構造の水が役割を果たしており、それをどのようにしたら制御できるかということに関して十分な理解が得られていません。その意味においても、高分子電解質ブラシは水と高分子の相互作用を理解する基礎研究のプラットフォームとして注目されています。
 そこで我々は、軟X 線吸収・ 発光分光3を用いて水の水素結合に関与する酸素の電子状態を直接観測することによって高分子電解質ブラシ中の水の構造を明らかにし、水の構造、それを作りだす材料側の因子およびブラシ表面の機能の相関を明らかにすべく研究を行っています。

高分子電解質ブラシ中の水の水素結合構造と軟X線発光分光の概略図

図 1. 高分子電解質ブラシ中の水の水素結合構造と軟X線発光分光の概略図。
高分子電解質は、poly(2-(methacryloyloxy)ethyl trimethylammonium chloride) (PMTAC) である。

高分子電解質ブラシ中の水の電子状態を観測することに成功

高分子電解質ブラシ中の水の構造はブラシ表面の濡れ性などの特性と関係するため、構造を詳しく調べることは高分子電解質ブラシの機能発現メカニズムを知り、さらなる機能化を図る上で重要です。
 最近、我々は SPring-8 BL07LSU の超高分解能軟X線発光分光ステーション4にて、軟 X 線吸収・発光分光分析技術を用いて高分子電解質ブラシ中の水由来の酸素 K 吸収端発光を抽出し、ブラシ中の水の水素結合構造を解明する手法を開発しました(図1)。軟X線を透過させる観測窓として用いる厚さ 150 nm の基板 (SiC) に、高分子電解質ブラシを固定化する重合技術を開発・導入することで、ブラシ中の水が、室温でも「歪んだ氷のような特異な水素結合構造」であるという知見を世界で初めて得ました5
 従来の高分子電解質ブラシ中の水の研究は、赤外吸収などの振動分光や計算に限られていました。軟 X 線吸収・発光分光は、水の水素結合に関与する酸素の価電子状態を観測するため、従来の振動分光よりも直接的に水素結合の影響を反映し、特に配位の対称性(正四面体配位など)に敏感である点が特色です。これにより高分子電解質の水和や溶液の粘性など、分子間の相互作用が重要な現象のメカニズムをミクロな視点から明らかにする研究への貢献が期待されます。

水の限りない可能性にかける想い

 今後はナノ空間での水や溶液の構造解析をすることにより、水の水素結合形成を制御する技術を確立することも可能になるでしょう。身近な水という資源の活用方法を発展させコントロールできるようになれば、さらに水の応用展開が可能になります。水は安全で無限の可能性に満ちています。水の役割をさらに明らかにし、社会に役立つものや材料開発の基礎を支えたいと思っています。

参考

  • 高分子鎖中に解離基をもち,水中で解離して高分子イオンとなるもの。
  • NHK総合テレビ「超絶 凄ワザ!」の「夢かなえますSP 汚れがすぐ落ちる!究極のまな板編」(2017年01月14日)https://hh.pid.nhk.or.jp/pidh07/ProgramIntro/Show.do?pkey=001-20170114-21-28856
  • 物質中の電子状態分布を調べる手法のひとつ。物質を形作る原子はそれぞれ固有のエネルギーで束縛された内殻電子を持っている。それら内殻電子を、軟X線を使って電子の埋まっていない価電子帯へ遷移する過程を軟X線吸収と呼び、逆に価電子が内殻に遷移する過程で生じる軟X線は軟X線発光と呼ばれる。軟X線吸収・発光分光はこれらのエネルギースペクトルを取得する方法であり、物質の元素ごとの電子構造や化学状態に関する情報を得ることができる。
  • 2006 年 5月に総長直轄の組織として発足した放射光連携研究機構物質科学部門がSPring-8の長直線部に所有する世界最高水準の軟X線アンジュレータビームライン。3つの常設の先端分光実験ステーションとユーザーが任意に装置を持ち込める1つのフリーポートを有し、2009 年10月から共同利用を実施している。
  • Kosuke Yamazoe, Yuji Higaki, Yoshihiro Inutsuka, Jun Miyawaki, Yi-Tao Cui, Atsushi Takahara, and Yoshihisa Harada. "Enhancement of the hydrogen-bonding network of water confined in a polyelectrolyte brush." Langmuir 33 3954-3959 (2017).
    【物性研ニュース】高分子ブラシの隙間で氷のようにつながった常温の水
    http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=1009
    【Spring-8トピックス】高分子ブラシの隙間で氷のようにつながった常温の水
    http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2017/170528/
山添 康介

山添 康介
東京大学物性研究所
極限コヒーレント光科学研究センター
軌道放射物性研究施設(ISSP-SOR)
原田研究室
http://harada.issp.u-tokyo.ac.jp

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